画材と技法
岩絵具について
天然の鉱物を砕いて作られる絵具。非常に高価で貴重なものですが色がとても美しく、日本画にはなくてはならない存在です。天然岩絵具と人造岩絵具との2種類があります。
製造工程:1.絵具に適する石を選り出し粉砕する。2.ふるいにかけ、ふるいに落とされたものを再び微粉砕する。3.水干絵具と同様すいひの工程で不純物を取り除き、粒子分け(分級)を行う。4.分級後それぞれさらに不純物を取り、あまり高くない温度で乾燥させる。
代表的な色:青=群青…藍銅鉱を砕いて精製して作ります。鮮やかな天然群青は最近非常に手に入りにくくなっています。緑=緑青…孔雀石を精製して作ります。原石は炭酸銅と水酸銅などからなっており美しい緑色を呈しています。
水干絵具について
原材料となる粘土質の土などを水の中で粒子分けして精製する水簸(すいひ)の工程を経て作られる絵具です。岩絵具に比べ色数が多く、粒子が細かくて塗りやすく、自由に混色できることから日本画彩色の基本となる絵具です。かつては天然のものだけを原料としていた水干絵具も、現在では耐光性のある顔料や染料に胡粉や白土などを混ぜて様々な色合いのものが造られています。色名や色合いは製造者によって異なりますが、日本画らしいイメージのものが多く、その一方でかなり鮮やかな色合いのものもあります。
製造工程:1.原材料を絵具のための原料につくり変える為に(粉砕し)、水を入れてかき混ぜて不純物を取り除く。この作業を繰り返し精製する。2.できた原料を混ぜ合わせたり、熱を加えることによって色をつくる。3.大きな鉢や壺などに入れて再び水洗いする。4.板の上に絵具を流して天日干しまたは自然乾燥に近い状態で乾燥させる。
代表的な色:黄土…古来から使われている絵具の1つで、鉄鉱石、長石などが風化した土で作ります。朱土…成分中に酸化鉄を含んだ土からつくられる赤褐色の顔料で、上質の朱土は渋い朱に似た重厚な色があります。代赭…成分中に酸化鉄と少量のマンガンを含んだ土でつくられ、赤みを帯びた茶色をしています。胡粉…古来から。日本画の重要な絵具の1つとして使われてきました。用途も広く、白色顔料としてはもちろん、他の色と混ぜて使用したりします。主成分は炭酸石灰でわずかにリン酸石灰を含んでいます。原料は牡蠣(かき)や蛤の貝がらを使います。長い歳月風雨にさらした貝を砕き、不純物を取り除き水干したものです。絵具メーカーによって品名は異なりますが、精錬されて細かいものほど上質胡粉となり、上質のものから特級、一級、二級、三級、四級、盛上げ胡粉などと呼ばれます。
截金について
截金は平安時代に日本独特の発展を遂げた仏像、仏画の装飾技法です。金箔や銀箔など(金属を薄く延ばしたもの)を細い線や小さな丸・三角などの形に切って、それを筆とノリを使い仏像・仏画に種々な形を貼りあわせ金銀に輝く緻密で繊細な美しい文様を描きだすものです。
截金は、もともと中国でおこり、日本には飛鳥~奈良時代頃に伝えられました。そして12世紀前後頃に貴族文化の洗練された雅を受け継ぎ最盛期を迎えます。当時の優れた仏像・仏画の遺品には、様々な截金文様を施した例が多くみられます。例えば、平安時代の如来画像中の最高作ともいわれる京都・神護寺「釈迦如来像」等があげられます。
その後、政治が貴族から武士の手に移ると、美意識が変化してゆき、また仏教美術の衰退とあいまって截金の手法は衰え、近世以降は浄土真宗の東西両本願寺の庇護のもと、少数の截金師により細々と伝承されるのみとなりました。昭和初期頃には、その技術を受け継ぐ人がわずか数人にまで減り、一般の方々にはその存在さえほとんど知られることのない秘術でしたが、昭和の戦後、その存在を取り上げる人々、受け継ごうとする人々が現れ、滅びることなく今日に至っています。近年では、故・江里佐代子氏がこの伝統工芸技術の「截金」で人間国宝となられてから一般の方々にも目や耳にされる機会が徐々に増え知られるようになりました。